熱処理のイロハ

ここでは、鋼の熱処理についてまとめてみました。
変幻自在の性質をもつ鋼はいわば‘金属のカメレオン’・・・。
-資料提供 高砂鐵工株式会社殿−

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熱処理の基本 焼ならし 焼なまし 焼入れ 焼もどし
表面硬化処理 各種熱処理 顕微鏡組織 熱処理トラブル 技術情報へ戻る


1.熱処理の基本

鋼は殆どの場合熱処理を施すことにより、最終部品の必要とする特性を発揮します。
熱処理は基本的には加熱における加熱速度・加熱温度・保持時間、および冷却における冷却速度・冷却保持温度・冷却保持時間などにより特性が左右されます。
この他、熱処理における浸炭、窒化、および加工などが加わることにより特性が変化します。
熱処理の基本4種は次の通りです。

種 類 内 容
焼ならし 組織を均一安定なものにします。
焼なまし 鋼を軟化させ、加工しやすくします。
焼入れ 鋼を硬くし、強くします。
焼もどし 焼入れ後のもろい鋼をねばく、強靭性のある鋼にします。
また内部ひずみを除去します。

では次に、各熱処理の詳細について触れたいと思います



2.焼ならし

圧延や鍛造により塑性変形を受けた不均一な状態の結晶粒を、変態点Ac3(下図G点〜S点)またはAcm(下図S点〜E点)よりも約50℃高い800〜950℃の温度に加熱後放冷し、均一な組織状態に改善する処理です。

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3.焼なまし

熱間圧延や鍛造、または熱間加工などにより不安定で加工性に乏しくなった鋼を加熱保持することにより、結晶粒や炭化物の分布を均一なものにし、加工性を改善したり内部ひずみを除去したりする為に行われます。
それぞれの目的に応じ処理温度が異なり、下図にC%と処理温度の範囲を示します。

Fe−C系状態図中における焼なましの温度範囲

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4.焼入れ

4−1 鋼の炭素含有量と焼入れ温度
鋼は焼入れにより硬化し強くなります。
その操作は変態点(Ac3またはAc3-1)より約50℃高い温度に加熱し、充分にオーステナイト化ないしは炭素の固溶を行った後、水・油・塩浴・空気などで冷却します。
焼入れ冷却により硬い組織のマルテンサイトが生成し、この温度をMs点と呼びます。
焼入れ加熱温度は炭素量により異なり、下図に炭素含有量と焼入れ温度の関係を示します。


Ms点(℃)=550-350×C%-40×Mn%-35×V%-20×Cr%-17×Ni%-10×Cu%-10×Mo%-5×W%+15×Co%+30×Al%

炭素鋼の焼入温度


4−2 焼入れ温度と硬さ
焼入れ加熱温度の違いにより、焼入れによって選れれる硬さは異なってきます。
この焼入れ温度と焼入れ硬さの関係を焼入れ曲線といいます。下図にその例を示します。

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SK5、S55C、SCM3Mの焼入曲線

4−3 鋼の炭素量と焼入れ最高硬さ
最適条件の焼入れにより得られる最高硬さは、主にその含有C%により決まります。
炭素量と焼入れ最高硬さの関係を、下図に示します。

鋼の炭素量と焼入最高硬さの関係

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5.焼もどし

焼入れにより得られたマルテンサイト組織は硬くてもろいものです。
これをAc1変態点以下の温度で長時間加熱保持することにより、軟化した上ねばさが出てきます。
この処理のことを焼もどしといいます。
一般的にはその効果を硬さで判断するのですが、鋼種により異なる焼もどし温度と硬さの関係の例を下図に示します。
CrやMoを添加することにより、焼もどし軟化抵抗が高くなり、温度が上昇しても硬度が下がりにくくなります。

焼もどしかたさ曲線

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6.表面硬化処理

鋼の表面層を硬化する為に行う熱処理で、浸炭焼入れ処理、窒化処理(nitriding)、高周波焼入れ等々いくつかの方法があります。

6−1 浸炭(Carburizing)
活性化した炭素を多く含むガス、液体、固体などの浸炭剤中で鋼を長時間加熱することにより、表面層から炭素を含浸させる処理です。
浸炭した鋼は、焼入れ焼もどしすることにより著しく硬化し、耐摩耗性の良いものが得られます。
浸炭後の表面から芯部に至るC%濃度変化と硬さの変化を、0.21%Cの例で下図に示します。
尚浸炭状況を判断するには一般に断面硬さで判断し、次の項目があります。
1.表面最高硬さ(一般にHV700〜900)
2.浸炭深さ・・・硬度がHV550まで下ったところの表面からの距離
3.芯部の硬さ・・・芯部付近の、鋼の地のC%に近いところの硬さ

6−2 高周波焼入れ法(High freqency induction hardening)
高周波電流の通じているコイルの間に部品を入れ、その表面に生じる過電流に伴うジュール熱によって加熱した後、冷水で焼入れします。
部品の部分焼入れで量産物に利用されることが多い

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7.各種熱処理

マルテンパー 変形を押さえる焼入れ方法で、加熱後200℃近辺の冷却剤中に保持した後徐冷します。
オーステンパー 鋼に強度と靭性を与え、ひずみ発生及び焼き割れを防止するための焼入れ方法。
加熱後300〜500℃の冷却剤中に急冷した後、徐冷します(ベーナイト鋼)。
サブゼロ処理 焼入れしただけでは何%かは残留オーステナイトが存在します。
これを0℃以下の低温に冷却することにより、マルテンサイトに変態させて焼入れ効果を十分得るとともに、部品の経年変化を防ぎます。
パテンティング 鋼を加熱しオーステナイト化した後、500〜600℃に急冷し、さらに常温まで空冷する操作で、その後の冷却加工を容易にします。

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8.顕微鏡組織 (下の名称をクリックすると組織写真がご覧頂けます)

フェライト結晶粒 層状パーライト組織 針状マルテンサイト
オーステナイト結晶粒 球状セメンタイト組織 ソルバイト組織
熱間圧延組織 パーライト組織 表面脱炭組織


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9.熱処理に伴うトラブルの注意点

9−1 熱処理ひずみ
熱処理ひずみとは、部品を熱処理した時に中に生じたストレスの総和がゼロになった状態を言います。

*ひずみの種類*
・変寸(Size Change)・・・・・焼入れ変態による膨張、収縮・・・・・・・・・・・・・・・相似変形
・変形(Shape Change)・・・自重だれやストレスによる形のくるい・・・・・・・・・・非相似変形


*焼入れひずみ発生の3段階*
加熱中(内部ストレスの解除)−−−保持中(自重だれ)−−−冷却中(冷却中の変態)

*ひずみの要因を考えるステップ*
設計から部品が出来上がるまでの各ステップでひずみ要因を考えて下さい。

鋼材特性 設計と前加工 熱処理設備 加熱 変態 冷却


*変寸の原因*
組織が変態することにより起こります。
・焼入れによりオーステナイトからマルテンサイトに変態・・・膨張(C量が多いほど大)
・この時残留オーステナイト存在・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・収縮(残留γ量が多いほど大)
・焼もどしによりマルテンサイトが分解する ・・・・・・・・・・・・・収縮(C量が多いほど大)


*変形の原因*

鋼材に内在する
内部ストレス
温度分布の不均一や変態により発生します。
加熱中に変形するものと冷却中に変形するものとがあります。
外部から与えられた力 自重によるダレや他から加わる力によります。



9−2 かたさ不足と焼むら
それぞれ使用する鋼種にあった焼入れ、および用途に応じた焼もどしを施すことが大切です。

*焼入れかたさ不良の原因*
・焼入れ加熱時の加熱不足により、完全にオーステナイト化せずにフェライトが残ったり、オーステナイト中への炭素の固溶不足が生じた場合。
・焼入れ冷却時の冷却不足により、トルースタイトあるいはソルバイト組織が出た場合。
・表面脱炭によるもの・・・ひずみの原因にもなります。


*不良をなくすには?*
品物の量、大きさと熱処理炉の加熱容量、特に連続炉では所定温度の保持時間、炉内雰囲気の対流、加熱雰囲気の組成、焼入れ油の攪拌などなど、点検する必要があります。


9−3 焼き割れ
前項の熱処理ひずみ、および焼むらが起こる原因が基になって発生しますが、熱処理前の加工によるキズや、打抜き破断によるクラックに気を付けることも大切です。


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